Management Column誤って振り込みを行ってしまった場合は返してもらえない?
最近、気になるニュースの一つに山口県阿武町が4,630万を誤って振り込んでしまったというニュースがあります。ニュースによると、振り込まれた男性は、その金額をネットカジノで全部使ってしまったと説明しているようです。「集めた税金を、ネットカジノで使ってしまうなんて許せない」という意見が多く、ネットカジノとはどのようなものかを紹介する報道もみられます。
今回のニュースでは、明らかに自分の権利がないお金を使ってしまおうという悪意が感じられ、許されるべきものではないと考えます。しかし、日常生活では、振り込みの際に誤った金額で振り込んでしまうことも考えられます。そのような場合には、常に返してもらうことができるのでしょうか。会計事務所はお金と法律を扱う職業ですので、ここでは法律的な観点から実際にどのような手続きが可能なのかを考察してみたいと思います。
誤って別の口座に振り込んでしまったときの処理
金融機関で誤って送金した場合に返金をしてもらう方法として、「組戻し」があります。「組戻し」は、金融機関に資金を返してもらうように求める手続きですが、一度振り込まれてしまったお金は、金融機関側が勝手に取り戻すことができず手続きが必要です。金融機関が振込先の口座名義人に連絡を取り、了承を得ることができた場合に、返金される仕組みです。
間違えて振り込まれてしまったお金を自分のものにしたいと思っても、連絡があれば、そのお金には自分の権利がないわけですから、返却に応じるケースがほとんどでしょう。しかし、今回のニュースのように相手が返金に応じてくれないケースもあり得ます。通常は、金融機関では個人情報保護の観点から詳細な連絡先を開示しないと考えられます。
また、相手を説得するために尽力してくれることも少ないのではないでしょうか。では、相手が返却に応じてくれない場合には、どうしたらよいのでしょうか。
間違えて振り込まれたお金は不当利得にあたる
誤まって振り込まれたお金は、民法では703条で、契約などの法律上の原因がなく生じた「不当利得」にあたります。不当利得は、「その利益の存ずる限度において返還する義務を負う」ことが原則です。これを現存利益といいます。誤って振り込んでしまった人は「不当利得返還請求権」を持ちます。
ここで、「現存利益」とは、利益が現物のまま、または姿を変えて、現存するもののことです。例えば、誤って振り込まれたお金を使ってしまっていても、生活費などに使ったのであればその出費を免れていると考えられ、形を変えて利益が残っているため返還義務があるとされます。しかし、単なる浪費の場合には現存利益がないとされることもあります。浪費の典型的なケースがギャンブルであるため、今回のニュースでは「ネットカジノで使ってしまった」のかもしれませんね。
なお、民放では704条で、悪意の場合は、その受けた利益に利息を付けて返還しなければならず、損害があるときは賠償責任を負うとされています。民法上の善意、悪意とは、知っているか知らないかを指します。また、裁判では個別的な事情なども考慮して判決が出されています。
刑事事件になる場合
振り込みを受けた相手が、誤って振り込まれたものと知りながら金融機関の窓口で払い戻しを受けると、詐欺罪が成立する可能性があります。最高裁で、間違えて振り込まれたことを知りながら、事情を隠して窓口で払戻請求した行為について、欺罔(ぎもう)行為にあたると判断された判例があります。また、誤って振り込まれたお金をATMで引き出す行為や違う口座に資金移動する行為は、窃盗罪や電子計算機使用詐欺罪が適用される可能性もあります。
以上のことから考えると、誤って別の口座に振り込んでしまった場合は、即座に金融機関に連絡し、組戻しの手続きを依頼すべきといえるでしょう。金融機関の営業時間内であれば、即日振り込まれることがほとんどですが、場合によっては相手の口座に着金しておらず、手続き自体を中止できる可能性もあります。また、返金の依頼があれば、ほとんどのケースで応じてもらえるでしょう。もし、応じてもらえない場合には、弁護士などの専門家にその後の手続きを相談するのがよいでしょう。刑事訴訟ではお金を取り戻すことが難しいので、できれば話し合いで解決したいものですが、弁護士は交渉の相談にものってくれます。