Management Columnふるさと納税 利用者過去最高に
いよいよ年の瀬が迫りました。この時期、駆け込みでふるさと納税をした人も多いはず。総務省によれば、2022年度のふるさと納税寄附額は約9,654億円、納税寄附件数は約5,184万件、利用者数も約891万人と過去最高を更新しています。今回は、ふるさと納税に焦点をあてます。
自治体に寄付をして減税を受ける
ふるさと納税は2008年から始まった制度です。居住地ではない自治体に一定額を寄付すると、その年の所得税と翌年の住民税の減税が受けられ、さらにその自治体から返礼品をもらうことができます。
つまり、「減税が受けられる寄付金」です。以前は確定申告が必要でしたが、2015年から「ワンストップ特例制度」が始まり、サラリーマンは寄付先の自治体に所定の申請書を出せば手続きが完了し、使い勝手がよくなりました。ワンストップを利用した場合、所得税の減税分も加えた金額が、住民税から減税されます。
2,000円の負担で、それ以上の返礼品
人気が出た一番の理由は、寄付金が一定額までならば、「実負担額2,000円(=寄付金マイナス減税額)で、それ以上の価値の返礼品がもらえる」ことでしょう。
ただし、そもそもは「今は都会に住んでいても、自分を育んでくれた『ふるさと』に、自分の意思で、いくらかでも納税できる制度があっても良いのではないか」という問題提起から始まった制度です。総務省は、ふるさと納税には「三つの大きな意義」があるとして、以下のように説明しています。
- 納税者が寄附先を選択する制度であり、選択するからこそ、その使われ方を考えるきっかけとなる制度である
- 生まれ故郷はもちろん、お世話になった地域に、これから応援したい地域へも力になれる制度である
- 自治体が国民に取組をアピールすることでふるさと納税を呼びかけ、自治体間の競争が進む
いかがでしょうか。納税者の意図と政府が掲げる意義の間には、なかなかの隔たりがあることがわかります。
ふるさと納税の困った点
さて、人気のふるさと納税ですが、良いことづくめというわけではありません。過度な返礼品競争が問題になり、総務省が手綱を引き締めたのはご存じの通りです。特産品のある自治体にはたくさんのふるさと納税が集まる一方、そうでない自治体には集まらないばかりか税収が減ってしまうという問題点があります。
ここで、ワンストップ納税を利用したサラリーマンAさんに登場してもらいます。Aさんの住んでいる自治体はX、ふるさと納税をした自治体はYです。Xにはこれといった特産品がありません。Aさんは、ちょうど2,000円の負担で済むよう計算し、Yに50,000円のふるさと納税をしました。
総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果(令和5年度)」、読売新聞「ふるさと納税…結局誰が得をして、誰が損をしているのか」(2022.2.18)を参考に、50,000円がどう配分されるかを考えてみます。
- Aさん…
- Xから48,000円の住民税減税を受け、実負担は2,000円
- 自治体X…
- 48,000円の税収減
- 自治体Y…
- 50,000円の寄付を受ける。返礼品の販売業者に13,900円(27.8%)、それ以外に諸費用(送付・広報・決済・事務)として9,500円(19.0%)を支出。実収益は26,600円(53.2%)
(注)カッコ内のパーセンテージは、総務省の資料「ふるさと納税の募集に要した費用(全団体合計額)」による。ふるさと納税サイトへの支払いは諸費用に含まれる。
矛盾を抱える制度
自治体Xが大都市で、もともと財政が豊かならばまだしも、規模の小さな自治体で特産品がない場合は、X自身が受ける寄付金はそれほど多くありません。ふるさと納税を利用する住民が増えるほど税収減となり、結果として住民サービスの低下につながりかねません。単純計算で人口比7.4%の利用率なので、それなりの税収減となることもあり得ます。総務省の意義に「自治体間の競争」とありますが、土台となる条件が自治体ごとに違っており、そもそも競争として成り立たないのではないでしょうか。良かれと思ってすることが、実は自分の首を絞めることにつながるのでは困ります。
一方で自治体Yにとっては寄付された金額の半分近くに減るとはいえ、財政難を支える確かな収入源となっており、非常に助かっているという声が出されています。ふるさと納税は、引き続き矛盾を抱えた制度であり、そもそもの趣旨や自治体財政への影響の検証も含め、さらなる制度変更が必要ではないでしょうか。
参考:総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果(令和5年度)」