Management Column事業承継・引継ぎ支援事業に関する令和5年度の現状
中小企業経営者の高齢化が進むなか、政府は事業承継支援を重要課題の一つと位置付け、ガイドラインの策定やM&A支援制度の整備など様々な施策に取り組んでいます。しかし10月に中小企業基盤整備機構から提出された報告では、相談件数と成約件数は過去最高を記録しましたが、一部では目標未達が目立ち、地域間でのばらつきが見られました。
1.事業承継を巡る状況
中小企業白書(2024年版)によると、中小企業経営者の平均年齢は上昇を続け、全国平均で63.8歳と過去最高を更新、とりわけ地方圏における高齢化が顕著になっています。また、2023年の休廃業・解散件数は49,788件とコロナ禍の影響が大きかった2020年を上回る高水準で、経営者の高齢化と後継者不在が大きな要因となっています。特に70歳以上の経営者による休廃業・解散の割合は年々増加し、黒字廃業の割合も高い状況が続いています。
後継者の有無については後継者不在率は改善傾向にあるものの、2023年は54.5%と依然として高い水準です。経営者の年代が上がるほど、親族内外を問わず事業承継を検討する割合は高まっていますが、70歳代以上でも3割弱が「未定・分からない」と回答しています。
事業承継を円滑に進められなかったことを起因とする後継者難倒産も増加、2023年度は586件(前年度20.3%増)と過去最多を大幅に更新し、業種別では建設業が約20%を占め、小売業、卸売業の順となっています。
■経営者の年代別に見た、事業承継の意向
2.政府の取り組みについて
政府は平成27年度に「事業引継ぎガイドライン」を策定、M&Aの活用促進に取り組み、 令和2年3月に「中小M&Aガイドライン」を公表、後継者不在の中小企業向けにM&Aのプロセスを示しました。
同年7月に閣議決定された「成長戦略フォローアップ」には、第三者承継支援と親族内承継支援のワンストップ体制の構築などが明記され、更に令和3年6月の「成長戦略実行計画」では、中小企業の円滑な事業承継の後押しと、M&Aを適切に活用できる環境整備が提示されました。
同年4月に「中小M&A推進計画」を取りまとめ、今後5年間の官民の取り組みロードマップを示し、8月に中小M&Aの安心感醸成のため「M&A支援機関登録制度」を創設。民間でもM&A仲介業者による自主規制団体が設立されています。
令和4年3月には円滑な事業承継をより一層推進するため、「事業承継ガイドライン」を改訂、令和5年9月に「中小M&Aガイドライン」も改訂し、M&A専門業者との契約条項や手数料、支援の質の確保などが追記されました。
3.令和5年度の具体策とは
事業承継・引継ぎ支援センター(以下センター)では、令和5年度に以下の事業に取り組んでいます。
- (1)情報収集・情報発信強化に向けた取り組み
- 前年度に比べて案件の紹介件数が大幅に増加、連携が強化されました。また、中小企業・小規模事業者への周知・啓発活動として、積極的に情報を発信、ダイレクトメール、PR誌発行、ホームページ運営、動画作成、新聞広告などを実施し、事業承継フォーラムもオンラインで開催しています。
- (2)掘り起し支援の強化
- 地域の事業承継ネットワークを構築し、プッシュ型の事業承継診断などで掘り起こしを実施。令和5年度の事業承継診断件数が前年比107%の230,907件、エリアコーディネーターが対応した相談件数が前年比110%の10,507件と前年度を上回る実績でした。
また弁護士会との連携により14地域で覚書等を締結し、弁護士が支援した71件中35件が成約。中小企業診断協会とも連携し、M&A後の統合作業を中心に9地域で協力体制を築きました。 - (3)事業承継・引継ぎ支援の充実
- ①民間M&Aプラットフォーマーとの連携強化のため、二次対応の取扱を開始し、センター専門家向けに職能別研修やオンライン研修を実施。
- ②親族内承継支援体制を構築するため、コーディネーターやマネージャーを適切に配置し体制を強化した結果、親族内承継の相談件数と成約件数が過去最高に。
- ③事業承継・引継ぎ支援事業のためのデータベースに、セキュリティ向上のため多要素認証を導入、情報量の充実に向けて入力項目の拡充等を実施。
- ④登録民間支援機関やマッチングコーディネーターの増加に取り組み、前年度比で1,503機関に増加、優秀な人材も一般公募など。
- ⑤後継者人材バンクを積極的に活用、前年度から大幅に成約件数が増加。
4.令和5年度の実績と評価
令和5年度の事業引継ぎ成約件数は過去最高の2,023件(前年比 120%)となり、累計では10,174件に達しました。譲渡側の企業規模を見ると、売上高1億円以下の中小企業が6割超を占めており、従業員10名以下の小規模事業者も7割強に上ります。業種別では製造業、卸売・小売業、建設工事業が上位を占めています。
一方で譲受側は譲渡側より大規模な企業が多く、売上高1億円超が約6割、従業員21名以上が約4割で、全体の構成比は前年度から大きな変化がありませんでした。
各センターの事業評価は14センターがA評価でしたが、一部では目標未達が目立つなど地域間で取り組みにばらつきがあり、今後さらなる努力が求められています。
■事業引継ぎ成約件数
出所:中小企業事業承継・引継ぎ支援全国本部
参考資料:令和5年度に認定支援機関等が実施した事業承継・引継ぎ支援事業に関する事業評価報告書(独立行政法人中小企業基盤整備機構)