Management Column職場でのハラスメント防止と経営者の在り方
延期されていた東京オリンピックが開催され、なんとか閉会式も終わりました。アスリート達の素晴らしい活躍に感動と勇気をもらった人も多いかもしれません。同時に、オリンピックが開催されたことに、複雑な心境になった人も多くいます。それは、今回のオリンピックはコロナ禍の中で開催され、日本では新規感染者数が爆発的増加を見せているからです。また、IOCや日本政府など各組織の問題点が浮き彫りになりました。問題が起こったら失敗を隠すことなく問題を探り、よりよい方向に進むための改善策を探すことが大切なのではないでしょうか。
今回は、オリンピックでも企業でも共通する問題点のひとつ、ハラスメント問題について考えます。この問題は、労務の問題でもあります。会計事務所運営だけでなく、クライアントへのアドバイスを行う上でも知っておくべき問題といえるでしょう。
日本におけるハラスメント防止の取り組み
ハラスメント問題については、法改正による対策強化がはかられています。2020年6月より、いわゆるパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)が大企業で適用されており、中小企業では2022年4月から適用されることになっています。厚生労働省の「あかるい職場応援団」というサイトでは、基本情報から悩んでいる人に向けた相談窓口まで、分かりやすいコンテンツが多数用意され、これを閲覧する限り「日本ではハラスメントは許されない」と感じることができます。
しかし実際には、ハラスメント問題は根深いもので、今回のオリンピックでもいくつかの問題が指摘され、JOC会長の交代という事態も発生しました。ハラスメント問題をなくすには、社会全体で常に相手を尊重する価値観を育んでいくことが大切です。企業においては、まず経営者がハラスメント問題を理解し、経営者の「ハラスメントを許さない」という価値観を、従業員全体に浸透させていく必要があります。「何が許されて何が問題となるのか」は価値観の違いによることが大きいため、まずは客観的な視点からハラスメント問題に取り組む必要があります。
「あかるい職場応援団」には、チェックシートが掲載されていますので、チェックしてみるのもよいと思います。
ハラスメントと企業に与える影響
ハラスメントには、パワハラ(パワーハラスメント)・セクハラ(セクシャルハラスメント)、マタハラ(マタニティハラスメント)など種類があり、最近ではケアハラ(ケアハラスメント)といったものも注目されています。これらのハラスメントは、特に職場においては、上司や先輩といった優越的な立場を利用して、身体や精神に対する攻撃・人間関係での無視・無理な仕事の押し付け・仕事をさせない・プライバシーの侵害などの形になってあらわれます。
職場でハラスメントが発生すると、被害者の心身の健康が損なわれますが、ほかの従業員や企業自身にも影響があります。ほかの従業員がハラスメント発生を知ると、仕事へのモチベーションが下がり、全体の生産性も低下する可能性があります。加害者にとっても、社内での信用力が下がり、懲戒処分や訴訟のリスクが発生することになります。企業自身には、業績悪化・人材の損失・職場環境の悪化といった悪影響があり、ハラスメントを放置した場合には使用者の責任を問われ社会的な信用を失ってしまいます。
職場でハラスメントを防止するためには
職場でハラスメントを防止するには、漠然と「ハラスメントが発生しないようにしよう」と呼びかけるより、具体的な取り組みを行うほうが効果的です。
企業という組織は、経営者の意向が行動に反映されやすく、企業文化が形成されていくという特徴があります。ハラスメント防止においても、経営者が明確なメッセージを発信し周知させ、自らの行動を律する必要があります。今回の政府の新型コロナ対策では、各省庁の不祥事が国民に不信感を与えたことからもわかるように、トップや指導する立場にある人は、自らの行動をもって規範を示す必要があるといえるでしょう。
さらに、就業規則などの社内規定でハラスメント防止について規定し、ルールを整備します。従業員に周知させるには、社内研修などで客観的な視点から問題について学ぶことも大切です。社内アンケートの実施などは、従業員側の意識調査に役立つだけでなく、ハラスメントの早期発見にもつながります。