Management Column男女賃金格差のデータ公表について
男女賃金格差のデータ公表
2022年7月に「女性活躍推進法」改正省令・告示が施行され、常用労働者301人以上の企業には自社の男女賃金格差のデータを把握・公表することが義務付けられました。公表は事業年度終了後3か月以内と決められています。今年3月決算の対象企業のデータは出そろったことになります。
このデータは、全労働者、正規労働者、非正規労働者という三つの区分で、それぞれ男性労働者の平均賃金に対する女性労働者の平均賃金の割合を示すものです。「男女の賃金の差異70%」であれば、男性の平均賃金100に対して女性の平均賃金が70であることを意味します。
男女賃金格差が大きい日本
男女賃金格差は、世界各国の問題でもあります。国によってその是正の進み方は違っており、日本はなかなか進まない国の一つです。格差を示すデータをみると、主要7か国(G7)のなかでは最下位、OECDの調査では下から3~4番目のあたりです。もともと日本政府は、男女賃金格差について「我が国の男女間賃金格差は国際的に見て大きい状況にある」と認めつつも、「企業の負担になる」という理由で賃金格差を把握の必須項目にすることにも消極的でした。
しかし、世界経済フォーラムが発表するジェンダー・ギャップ指数で日本の総合順位が低迷(2021年…156か国中120位)を続けていること、SDGsの目標とターゲットに男女差別撤廃や同一労働・同一賃金が掲げられていること、国内において男女差別を争う労働裁判や運動が続いていることなどから、格差是正に向けて実効性のある第一歩を踏み出したものと考えられます。
格差の要因と是正の方向
実際、どれくらいの男女賃金格差があるのでしょうか。内閣府・男女共同参画局は、「令和3年の男性一般労働者の給与水準を100としたときの女性一般労働者の給与水準は75.2となっています」としています。厚生労働省は「男女間賃金格差の要因で最も大きいのは、役職の違い(管理職比率)であり、次いで勤続年数の違いとなっています」と分析しています。
つまり、賃金制度そのものの問題というよりも、むしろ昇格制度、業務の与え方、出産・育児休暇の利用しやすさ、性別による正規・非正規の人数の違いなどが格差を生み出す要因になっているようです。データ公表により、男女賃金格差の大きい企業は、労働環境や人事制度、社風などの見直しを迫られることになるでしょう。
しかし、そのことは結果として、企業や社員にとってプラスとなり、企業価値を高めることにつながります。厚生労働省は、女性の活躍に関する取り組みの実施状況が優良な企業に対して「えるぼし認定」を行っています。この認定を受けると、企業のPRに役立つとともに、公共調達で優遇を受けたり、日本政策金融公庫の「働き方改革推進支援資金」を通常より低金利で利用したりすることができます。
資金調達や経済成長につながる
男女賃金格差の是正は、単に人道的な意味からだけ主張されているのではありません。日経産業新聞(2022. 8.12)は、「男女間賃金格差は、多様な人材が能力を最大限発揮できる組織かどうかを測る重要な指標の1つになる」として、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資を推進する機関投資家にとっては、投資の判断材料になると指摘しています。つまり、資金調達にも関係してきます。
また、国際通貨基金(IMF)は、『ファイナンス&ディベロップメント』2019年3月号において、男女の格差縮小が企業にも社会にもプラスに働き、経済成長を押し上げるというレポートを出しています。