Management Column最低賃金の賃上げ、企業への影響は?
1.2024年最低賃金の動向
2024年10月から全国の都道府県で最低賃金が順次、引き上げられています。全国平均で過去最高の51円引き上げられ、時給の平均は1055円となります。引き上げ額は都道府県により異なり、最大は徳島県の84円、最小は20都道府県の50円です。最も高い東京都は1163円、最も低い秋田県は951円のように、都道府県間で大きな開きがあり、地域による最低賃金の格差が一層拡大することになります。
なお、都道府県別の最低賃金改定額は以下の通りとなっています。
2.最低賃金引き上げの影響
最低賃金の引き上げにより、企業には以下のように様々な影響が生じるでしょう。
- ①人件費の増加
- 最低賃金が引き上げられると、最低賃金に満たない給与の従業員の賃金を引き上げる必要があります。これにより、企業の人件費が増加することになります。人件費の増加分は企業の収益を圧迫する要因となるため、対策が必要不可欠です。
- ②採用活動への影響
- 最低賃金の引き上げにより、賃金総額が高くなるため、企業の採用コストが増加します。採用予算に余裕がない場合、計画していた募集人数を減らさざるを得なくなる可能性があります。
- ③従業員のモチベーション低下リスク
- 最低賃金の引き上げにより、最低賃金労働者と熟練労働者の賃金格差が縮小します。その結果、熟練労働者の賃金が相対的に低くなると受け止められ、モチベーション低下のリスクが高まります。
このように、最低賃金の引き上げは企業経営に大きな影響を与えます。人件費の増加分を製品価格に転嫁するか、生産性向上に取り組むなどの対策が求められます。
3.最低賃金の計算方法
最低賃金額を遵守しているかどうかは、雇用形態や給与体系によって計算方法が異なります。時給制の場合は時給が最低賃金額以上であれば適法となりますが、日給制や月給制では所定労働時間数を加味した計算が必要です。詳細は都道府県労働局や労働基準監督署にご確認ください。なお、日額と時間額の両方が定められている特定(産業別)最低賃金については、適用される額が異なりますのでご留意ください。
- 【最低賃金の対象とならない賃金】
- (1)臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
- (2)1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
- (3)所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
- (4)所定労働日以外の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
- (5)午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
- (6)精皆勤手当、通勤手当及び家族手当
最低賃金の対象となるのは毎月支払われる基本的な賃金なので、最低賃金を計算する場合には、実際に支払われる賃金から以下の賃金を除外したものが対象となります。
- ①時間給の場合
- 時間給≧最低賃金額(時間額)
- ②日給の場合
- 日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
ただし、日額が定められている特定(産業別)最低賃金が適用される場合には、 日給≧最低賃金額(日額) - ③月給の場合
- 月給÷1箇月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
- ④出来高払制その他の請負制によって定められた賃金の場合
- 出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、当該賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によって労働した総労働時間数で除した金額≧最低賃金(時間額)
- ⑤上記1〜4の組み合わせの場合
- 例えば基本給が日給制で各手当(職務手当等)が月給制などの場合は、それぞれ上の②、 ③の式により時間額に換算し、それを合計したものと最低賃金額(時間額)と比較します。
4.賃金引上げを支援する業務改善助成金の活用
業務改善助成金は、中小企業・小規模事業者が生産性向上のための設備投資等を行い、併せて事業場内最低賃金を引き上げた場合に、その費用の一部を助成する制度です。助成金の支給には、最低賃金引上げと設備投資の計画を立て、実施後に結果を報告する必要があります。助成額は設備投資費用に助成率を乗じた金額と助成上限額のいずれか低い方となります。
ただし、最低賃金引上げや設備投資は今後実施するものに限られ、従業員がいない事業者は対象外となります。対象事業者は中小企業・小規模事業者で、地域別最低賃金との差額が50円以内、解雇や賃金引下げがないことが条件です。全従業員の賃金を新たな事業場内最低賃金以上に引き上げ、引上げ人数に応じて助成上限額が変動します。
最低賃金に関する特設サイト(厚生労働省)