Management Column高年齢者雇用確保の経過措置は3月31日まで!

2021年に一部改正された高年齢者雇用安定法における経過措置の期限が、2025年3月31日に迫っています。この経過措置により、継続雇用制度の対象者を限定できていましたが、期限以降は「定年制の廃止」「65歳までの定年引き上げ」「希望者全員の65歳までの継続雇用制度の導入」のいずれかを講じる必要があります。就業規則にこれらが定められていない場合は変更が必要になります。
1.高年齢者雇用安定法改正の概要について
高年齢者の雇用措置を定める「高年齢者雇用安定法」は、1986年に当時の「中高年齢者等雇用促進法」を改正する形で制定されました。この法律は、高年齢者が継続して働く機会を確保することを目的としており、2021年4月1日からは70歳までの就業機会を確保する努力義務が企業に課せられています。
そして、2025年4月1日以降は、従業員が希望すれば65歳までの雇用を確保することが企業に求められます。これを実現するために、企業は「定年延長」「雇用延長」「再雇用」のいずれかを選択して実施する必要があります。
各企業は、自社の業務内容や人員構成、経営状況を踏まえ、最適な手法を選択することが求められます。また、これらの変更を反映した就業規則の見直しも必要となる場合があります。法改正に適切に対応するためには、早めの準備と労働局やハローワークへの相談が重要です。
※経過措置の終了によって、2025年4月1日以降、65歳までの定年の引き上げが義務になるわけではありません
■高年齢者雇用安定法:2021年4月~既に施行されている70歳までの就業機会の確保(努力義務)の内容
高年齢者就業確保措置として、以下のいずれかの措置を講ずる努力義務を新設。
- ①70歳までの定年引き上げ
- ②定年制の廃止
- ③70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
(特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む) - ④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入(※)
- ⑤70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入(※)
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a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業
※④、⑤は雇用以外の措置。創業支援等措置の実施に関する計画を作成し、過半数組合・過半数代表者の同意を得て導入できる。
■高年齢者雇用安定法:2025年4月~65歳までの雇用義務の内容
- ●60歳未満の定年禁止
- ・事業主が定年を定める場合は、その定年年齢は60歳以上としなければならない。
- ●65歳までの雇用確保措置
- ・定年を65歳未満に定めている事業主は、以下のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講じなければならない。
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①65歳までの定年引き上げ
②定年制の廃止
③65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度等)を導入
※継続雇用制度の適用者は原則として「希望者全員」となります。
2.高年齢雇用継続給付金の支給率の引き下げ
高年齢雇用継続給付は、60歳以降も働く意欲のある高年齢者の雇用継続を援助するための雇用保険制度です。被保険者期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の従業員が対象で、60歳時点の賃金額の75%未満になった場合、その差額の一部を補助する仕組みです。
現在は最大15%の支給率で給付されていますが、2025年4月1日以降、この支給率が最大10%に引き下げられます。この変更により、給付金を前提に賃金を設定している企業は、労働者の生活水準を維持するために賃金の引き上げや新たな補助制度の導入などを検討する必要があります。高年齢者の雇用を促進し、企業が円滑に対応するためには、早めの準備と調整が重要です。
■2025年4月1日以降の支給率

3.高年齢者雇用安定法改正後にとるべき方策
2025年4月1日以降、企業は継続雇用制度に関する見直しや新たな対応が求められます。必要な対策を、以下に再度まとめました。
- ●雇用契約や就業規則の見直し
- 経過措置の終了に伴い、企業は継続雇用制度の対象者を希望者全員に拡大する形で、就業規則や雇用契約の改定を行う必要があります。改定が完了した場合、所轄の労働基準監督署への届け出を忘れずに行いましょう。
- ●賃金制度の見直し
- 2025年4月から高年齢雇用継続給付が最大15%から10%に縮小されるため、従業員の収入減少に備えた賃金制度の見直しが必要です。不公平のない制度を構築するとともに、将来的な70歳までの雇用確保に向けた準備も重要です。
- ●再就職援助措置の実施
- 65歳以上70歳未満の離職者に対する再就職援助措置が努力義務となります。企業は職業訓練や資格試験の受験支援、経済的支援を通じて離職者の再就職を後押しすることが求められます。
- ●高年齢者向けの研修や教育
- 高年齢者が新たな業務に就く場合は、その業務に関する研修や教育を実施する必要があります。安全衛生教育を含め、従業員が安心して業務に取り組める環境を整えることが大切です。
4.事業主のための雇用関係助成金
高年齢者の雇用安定を推進するためには、助成金制度を活用することも有効な手段です。特に、国が提供する助成金には複数の種類があり、企業の状況や目的に応じて申請が可能です。主な助成金としては、以下の3つが挙げられます。 これらの助成金を活用することで、企業は法改正に伴う対応をスムーズに進め、高年齢者の雇用安定を図ることができるでしょう。申請を検討する際は、労働局やハローワークで相談することをおすすめします。
- ●65歳超雇用推進助成金
- 従業員の65歳以上の雇用を促進するために設けられた助成金です。具体的には、定年年齢の引き上げや定年制の廃止、継続雇用制度の導入といった施策を実施した企業が対象となります。高年齢者の就業機会を増やす取り組みを進める企業にとって、有益な支援と言えるでしょう。
- ●高年齢労働者処遇改善促進助成金
- 高年齢労働者の賃金や労働環境を改善し、働きやすい職場を整えることを目的としています。例えば、賃金制度の見直しや、職場環境の改善、スキルアップのための研修実施などが該当します。高年齢者が安心して働ける環境づくりを支援する制度です。
- ●特定求職者雇用開発助成金
- 60歳以上の高年齢者や障害者など、再就職が難しい求職者の雇用を促進するためのものです。高年齢者を新規に雇用した企業に対して、一定の助成金が支給されます。採用時の負担軽減を図ることができる制度です。
■参考資料
高年齢者雇用安定法改正の概要(厚生労働省)経過措置期間は2025年3月31日までです(厚生労働省)
令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します(厚生労働省)
雇用関係助成金一覧(厚生労働省)