Management Column役員借入金・役員貸付金の対策
8月に入り、厳しい暑さとなってきました。新型コロナ対策でマスクを着用しなければなりませんが、日中に外出する際に周囲に人がいなければマスクを外したり、室内では冷房を利用したりするなどで乗り切りましょう。水分補給も忘れないようにしてくださいね。
東京オリンピックでメダルラッシュの中、新型コロナの新規感染者数は爆発的な増加をしており、メディアでも政府の対策に対する批判が目立つようになってきました。「正しい情報を誠実に正確に伝える」ことが行われていれば、もう少し国民の理解を得ることができたのではないかと感じます。
コミュニケーション能力が問われるのは、会計事務所でも同じではないでしょうか。会社の状態、会社を取り巻く経済状況、選択することができる税務処理などの情報を、誠実に正確に伝えなければなりません。そして、最終的な判断はクライアントが行いますが、そこに至るまでの意思決定の過程では、会計事務所のアドバイスが役に立ちます。
今回は、法人である中小企業の決算で問題となりやすい役員借入金・役員貸付金についてのを考えていきます。これらが多すぎるときには、経営者に「何が問題となっているのか」「どのような対策をすれば解決できるのか」を伝える必要があります。
役員借入金・役員貸付金とは
役員借入金は、役員の法人に対する貸付金で、法人側からみると役員からの借入れとなるため、「役員借入金」という勘定科目で処理を行います。中小企業でよくみられるのは、会社資金が足りない場合に経営者が立て替えを行うケースです。
役員貸付金は、役員の法人からの借入金で、法人側からみると役員に対する貸付けとなるため、「役員貸付金」という勘定科目で処理を行います。中小企業で、役員が法人から個人的な資金の引き出しを行ったり、法人のための支出であっても領収書がなかったりするケースのほか、役員報酬の代替として役員貸付金勘定で処理するケースもあります。
役員借入金・役員貸付金の問題点
役員借入金も役員貸付金も、決算書では短期借入金や短期貸付金などに含めて計上されますが、申告書を提出する際の勘定科目内訳説明書には、具体的な内容を記載しなければならず、借入金や貸付金が役員に対するものであることが書類において明確にされます。
役員借入金については、経営者やほかの役員の同意がある場合には、無利息の融資先と考えられるため問題ありません。しかし、役員貸付金については定められた金利で受取利息を計上しなければならず、会社の利益となります。もしこれが計上されていない場合には、税務調査で指摘される可能性もあります。金利については、下記の国税庁のWEBサイトを参考にしてください。
国税庁 No.2606 金銭を貸し付けたとき税務上の問題のほか、役員貸付金が多いと金融機関からの評価が下がるという問題があります。金融機関の審査で、役員貸付金が多いと会社資金が経営者個人に流れていると判断されるからです。実際に、役員貸付金が多い会社が金融機関に融資相談をして「資金が足りないのであれば経営者への貸付金を返済してもらえばよいのではないか」と言われることも多いようです。
役員借入金については、会社経営上は役員を便利な融資先とみることができますが、その役員が死亡した場合には相続財産となり、相続税が高くなります。また、役員借入金が多額になると、会社の貸借対照表で債務超過になることも考えられます。債務超過は、金融機関から融資を受ける場合の審査で不利になる可能性があります。
役員借入金・役員貸付金がある場合の対策
まず、同じ役員に対して借入金と貸付金がある場合には、相殺するとよいでしょう。相殺しても役員借入金・役員貸付金が多い場合には、これらを減らす対策を検討していく必要があります。
役員借入金の場合は、役員が返済を免除する方法がありますが、法人側からみると債務免除益が発生するため法人税が増加することになります。このほか、役員が債務と交換に株式を取得する方法が考えられますが、みなし贈与となる場合があります。役員が後継者に貸付金を贈与する場合には、贈与税の基礎控除の範囲内であれば贈与税をおさえることが可能です。
役員貸付金の場合は、役員報酬の一部を貸付金の返済にあてる方法があります。手取り額を減らすか、手取り額はそのままで返済分を上乗せするという方法をとることになるのですが、上乗せする場合は、役員個人の所得税や社会保険料が増加します。このほか、役員の退職時に退職金を貸付金の返済にあてる方法もあります。
役員借入金・役員貸付金は、多額になってしまってから精算しようとすると大変です。できれば早い段階から、無理のない方法で減らしていくことが望ましいでしょう。