Management Column紙での約束手形が廃止される?代替方法の電子記録債権(でんさい)とは?
原材料価格やエネルギー価格が上昇しており、経営が苦しい中小企業も多くなっています。このような環境の中、中小企業のために、さまざまな取組みが提言されています。中小企業庁は、大企業と下請中小企業の取引を適正化するための5つの取組みを実施しようとしています。この中で、気になるのが「2026年の手形交換所における約束手形の廃止」です。経済産業省は2026年に約束手形を廃止する方針を決定していますが、会計事務所のクライアントの中にも、業種によっては約束手形での取引が多いケースもあります。
今回は、約束手形が廃止されるメリットとデメリット、約束手形の代替方法をまとめました。約束手形の取引が多いクライアントへの影響を考えたり、アドバイスを行う際の参考にしてください。
廃止されると困る?約束手形のメリット
約束手形は、決済手段の多様化や電子化などで流通量が減っていますが、製造業や建設業を中心に今でも多くの中小企業が利用しています。約束手形の大きなメリットは、支払いの先延ばしです。一時的に資金繰りが苦しい場合などの利便性が高い決済方法といえます。また、金融機関の審査を通過した企業しか約束手形を振り出すことができないため、約束手形を受け取る企業にとって安心感を得ることができます。不渡りを2回出した企業は銀行取引などが停止され、事実上の倒産とみられて信用力をなくすため、不渡りを避けるための努力がされることを想定されることも、約束手形を受け取る企業の安心感につながっています。
約束手形を受け取った企業は、手数料を払い手形を割り引くことで、期日よりも早く資金を回収することも可能です。
廃止される理由は?約束手形のデメリット
利便性が高い約束手形ですが、なぜ廃止されるのでしょうか?約束手形は決済期間が30日(1か月)から120日(4か月)と長いものが多く、約束手形を受け取った企業の資金繰りが困難になるケースが多いことがあげられます。約束手形は、30日(1か月)から120日(4か月)以内を期日として振り出されることが一般的です。手形割引をする方法もありますが、手数料がかかるというデメリットがあります。また、約束手形は紙で発行され、第三者への譲渡が可能で有価証券としての性質を持ちます。このため、印刷・郵送のほか管理・保管のためのコストがかかります。紛失した場合のリスクも大きいです。
中小企業の資金繰りの負担を少なくするために2026年までに約束手形を廃止し、約束手形にかわりペーパーレスの決済手段である電子記録債権(通称でんさい)へ移行することが推奨されています。
約束手形の代替方法として推奨される電子記録債権(でんさい)とは?
電子記録債権(でんさい)は手形代わる新しい決済方法で、電子債権記録機関である「でんさいネット」の記録原簿に債権の発生や譲渡を電子記録することで、効力が発生します。ペーパーレスであることからコスト削減につながり、自動入金されることで回収の手間が不要となります。分割返済が可能なことのほか、紙を使用しないため印紙税がかからないというメリットがもあります。
電子記録債権(でんさい)は紙での約束手形に比べるとメリットは多いですが、受取側企業の資金繰りから考えると、なるべく手形ではなく即時入金してほしいところです。約束手形廃止をきっかけとし、なるべく期日の短い決済手段をお願いするのもよいでしょう。ただし、どうしても約束手形を利用しなければならないようなケースもあります。このような場合には、電子記録債権(でんさい)は約束手形と同じように審査や支払不能時のペナルティなど安全策があり、譲渡や割引も可能なため、比較的安心して利用できるのではないでしょうか。