Management Column「形式上の貸倒れ」について
「コロナの影響で資金繰りが厳しいので、支払いを待ってほしい」。普段から付き合いのあった売上先からそう言われ、取引をストップ。そうこうするうちに一年以上経ってしまった!
そんなときに使えるのが「形式上の貸倒れ」です。
「形式上の貸倒れ」が使える債権とは
売掛債権の相手先に一定の事実が発生した場合、備忘価額(通常は1円)を差し引いた残りの金額を、貸倒損失として損金算入することができます(法人税基本通達 9-6-3 一定期間取引停止後弁済がない場合等の貸倒れ)。
あくまで売掛債権やそれに準ずる債権だけが対象で、貸付債権で使うことはできません。また、「法律上の貸倒れ」と違い、損金経理が要件となっています。
どんなことが起きたら使えるか
相手先に発生した「一定の事実」には、以下の2種類があります。
- ア.取引を停止してから一年以上が経過した場合
- イ.売掛債権の額がその取立てのために要する旅費その他の費用よりも少ない場合に、支払いを督促したけれども弁済してもらえないとき
アの場合、以下のような点に注意する必要があります。
- 1.継続的な取引を行っていた相手先に限られる※
- 2.相手先の資産状況、支払能力等が悪化したため取引を停止した場合であって、営業上の紛争などを理由に取引を停止した場合は含まれない
- 3.「一年」の起点は、「取引を停止した時」・「最後の弁済期」・「最後の弁済の時」のうち、最も遅い時である
- 4.その売掛債権について担保物がある場合は、貸倒損失をできない
※例外として、「通信販売により生じた売掛債権の貸倒れ」があります。これは、通販業者などが継続・反復して販売することを期待してその顧客情報を管理している場合には、結果として一回だけの取引だったとしても、その取引先を「継続的な取引を行っていた債務者」として扱ってもよいというものです。
備忘価額はいつまで残す?
最後に備忘価額です。最初の方で「通常は1円」と書きましたが、1円と決まっているわけではありません。10円や100円でもいいのですが、単に覚えのためだけなので通常は1円にします。
さらに、「備忘価額をいつまで残すか?」という問題があります。これについて「回収できないことが明らかになったときまで」というのが、教科書的な回答です。つまり、法人税法基本通達9-6-2「回収不能の金銭債権の貸倒れ」が適用できるようになったときに落とすというものです。
ただし、「債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないこと」を明らかにするには、それなりの労力が必要な場合もあると思われます。1円を落とすための費用対効果を考えると、ちょっとどうかという気がします。
【参考資料】