Management Column税理士法の懲戒処分と国税調査
会計事務所では、年末前から5月までは繁忙期といわれる時期で、税務調査はこの繁忙期には少ないともいわれています。言いかえると、初夏から年末までは税務調査が入りやすい季節ともいえ、新型コロナの新規感染者数が少なくなっているのもあり、この秋は税務調査が多くなったと感じている方も多いのではないでしょうか。
このような中、「国税の調査中に、税理士が自主廃業」というニュースが流れました。税理士業界にとっては大きなニュースといえるでしょう。今回のコラムは、このニュースが、どのような事件であり何が問題なのかに焦点をあてました。
「税理士の自主廃業」のニュース
税理士が廃業するには、「税理士登録抹消届出書」などを税理士会に提出し、税務署などに業務廃止手続きを行うことで可能です。一番多いのは、高齢のため税理士を引退したいというケースではないでしょうか。とはいえ、税理士には定年退職はありませんので、高齢でも税理士を引退することがない方も多く、自主廃業はあまり一般的とはいえません。
ニュースとなっているケースは、今まで業務を行っていた税理士が、国税の調査中に自主廃業したケースです。ニュースによると、過去10年間に50人を超える税理士が、調査中の自主廃業を行っているとのことです。
税理士法の「懲戒処分」との関係
この自主廃業には、税理士法の「懲戒処分」が大きく関係しています。懲戒処分の最も重いものは「税理士業務の禁止」となり、処分を受けた日から3年を経過する日まで税理士となる資格を有しないこととなり、税理士登録を抹消されることになります。懲戒処分を受けると、国税庁などで氏名や処分の内容が公表されるため社会的信用を失うことは必須で、税理士の責任が重いことがわかります。しかし、この懲戒処分の対象となる者は税理士であるため、自主廃業をすることにより税理士でなくなれば、懲戒処分の対象とはなりません。また、制度上は手続きを行えば、再び税理士として復帰することも可能です。
このため、国税調査中に自主廃業をすることは「懲戒逃れ」と呼ばれ、以前より問題となっているようです。直近では、税理士法人の元所長が懲戒逃れの疑いがある自主廃業を行っており、指示に従った元税理士である元部下が懲戒処分を受けたことがニュースになっています。
今後の動向
税理士は、税理士法において「税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそつて、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。」明確に示されています。税理士業界全体に対する社会的な不信感が大きくなると「納税義務者の信頼」が失われ、税理士制度自体が揺るぎかねません。
ニュースによると、国税当局は、制度の見直しを財務省に求めているそうですが、税理士業界でも、制度を見直すべきとの声も多いようです。今後は、調査中の自主廃業を認めない方向での制度改正が行われることが予想されます。
税理士や会計事務所としては、まずは税制をしっかり理解し、税金逃れなどの不正な行為に加担しないことが大切といえます。