Management Column士業の個人事業で社会保険への加入が必須に
会計事務所は、税理士法人制度が制定されるまでは、一部の大手会計事務所が会社形態を利用する以外は、ほとんどが個人事業でした。税理士法人制度の登場により、多くの会計事務所が法人化されました。これにより、会計事務所の存続、出資、リスクの分散という問題に、解決の道ができました。とはいっても、小規模の会計事務所で、まだ事業承継を考えなくてよい場合には、税理士法人より個人事業のほうが気軽に会計事務所を立ち上げやすいというメリットがあり、今でも個人事業の税理士は多いといえます。
しかし、令和4年10月から、一定の要件を満たしている場合には、個人事業の士業でも社会保険の加入が必要となり、個人事業であり続けるメリットの一つがなくなります。どのような場合に社会保険への加入が必要なのか、今回は、士業の社会保険加入についてまとめました。
国民年金法等の改正で、適用業種に士業が追加
現在、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用は、法人と、常時5人以上の従業員を雇用している一定の事業を行っている個人事業所となっています。したがって、会計事務所でも税理士法人である場合には、社会保険の加入が必須です。個人事業の場合は、一定の業種の中に士業が含まれておらず、社会保険に加入する必要はありませんでした。
令和2年6月に改正があり、令和4年10月からこの適用が拡大され、一定の事業に「弁護士、税理士等の資格を有する者が行う法律または会計に係る業務を行う事業」が追加されることになりました。具体的には、「弁護士、沖縄弁護士、外国法事務弁護士、公認会計士、公証人、司法書士、土地家屋調査士、⾏政書⼠、海事代理⼠、税理⼠、社会保険労務士、弁理⼠」です。
日本年金機構 健康保険・厚生年金保険の適用事業所における適用業種(士業)の追加(令和4年10月施行)被保険者となるのは
適用となるのは、常時5人以上の従業員を雇用している士業で、被保険者の対象となるのは、「正社員」と「パートやアルバイトなどのうち、1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が、正社員の4分の3以上」です。ここに、個人事業所の事業主は含まれず、例えば個人事業である会計事務所の所長である税理士は、社会保険の被保険者とはなりません。
なお、厚生年金保険は、70歳までの加入が原則となっています。また、加入要件を満たしていれば、国籍を問わず被保険者になります。
令和4年10月より前に社会保険に加入したい場合
「令和4年10月から適用事業所になるが、従業員のためにそれ以前に社会保険に加入したい」と考える方もいらっしゃると思います。そのような場合には、「任意適用申請の手続き」をとることができ、従業員の半数以上の同意と、厚生労働大臣の認可があれば適用事業所になることができます。
日本年金機構 任意適用申請の手続き社会保険には調査がある
社会保険の適用が必要であるにも関わらず、その適用手続きを行っていない場合には、社会保険の調査が実施される場合があります。遡って、未加入期間の保険料が徴収されることもありますので、社会保険の加入が必要な事業所は、速やかに加入手続きを行いましょう。