Management Column販売価格の設定を見直すためには?価格決定の仕組み
会計事務所の主な業務内容は、税務申告代理や記帳代行ですが、経営に対するアドバイスも主要な業務となっています。特に、会計に関係する数字に基づくアドバイスは、会計事務所の得意とするところでしょう。
昨今、円安、流通ルートの混乱などが複雑に絡み合い、商品や原材料価格などが上昇しています。企業努力のみでは利益を確保するのが難しく、仕入れ価格の上昇を販売価格に反映せざるを得ない状況になっています。大手企業でも次々と値上げがはじまっていますが、中小企業ではどのように値上げを行っていけばよいでしょうか。例えばクライアントから「利益を確保するために、どのくらい値上げをしたらよいでしょうか」という相談を受けたときに、会計事務所ではどのようなアドバイスをするべきでしょうか。
価格設定の仕組み
商品やサービスの価格、その商品・サービスの価値を表わすものと言われています。消費者は、その商品・サービスがどのくらいの価値を持つかで、払ってもよい価格を決定します。つまり、価値より高い価格の商品・サービスは売れず、価値より低い価格の商品・サービスは売れるのが原則となります。商品・サービスの価格は需要と供給のバランスで決まり、現在の値上げラッシュは、供給が少なく価値が高いものの価格があがっている状態と考えることができます。
とはいっても、販売する価格を決定する際に、需要と供給のみを考えて仕入れ価格や利益を考慮しないで決定することはできません。自社で決めることができるのは、市場で売ることができる価格(価値)と、製造・仕入原価の間の範囲内になります。利益を確保するには、販売価格を上げるか製造・仕入原価を下げる必要があります。
直接原価計算の考え方
会計事務所では、税務申告や資金繰り対策に必要な資料が重視されており、日々の記帳業務も原価を計算するといった視点からは行われないのが一般的です。棚卸資産や原価を計算するために、製造原価とそれ以外の原価を区別して記帳することはあっても、変動費と固定費を区分して記帳するのは製造業などに限定されているのではないでしょうか。これは、厳密な原価計算を行ったとしても、中小企業で決めることができる価格設定の範囲が少ないからといえるでしょう。
しかし、厳密な原価計算を行わないとしても、変動費と固定費を区分して考える計算方法は、経営の問題点を発見するのに有効な方法です。簡略化した計算であれば、手間もそれほど増えません。今まで行っていた記帳の中で、勘定科目を変動費と固定費に分類し、分類できないものは勘定科目を変動費と固定費の2つにわけて記帳することで簡単に集計が可能です。
損益分岐点と価格決定
直接原価計算の考え方で集計を行えば、どれだけの売上があったら固定費を回収できるかという損益分岐点が分かります。損益分岐点は、利益がゼロの時点の売上高です。あとは、どれだけの利益を確保したいかにより目標売上高を計算することが可能です。利益は、利益率、販売数量によって変動します。利益を確保するために、利益率の低い商品・サービスを大量に販売するか、少ない販売数量で利益率の高い商品・サービスを販売するかの意思決定をすることも可能となります。
損益分岐点分析での価格を決定は、単一の商品・サービスについての計算を前提としており、厳密に行おうとすると商品・サービスごとに集計しなければならず、計算・集計コストの観点から難しい場合もあります。計算を簡略化し全体の直接原価計算の考え方を取り入れるだけでも、全体としての販売方針や価格転嫁の方針を決定する目安にはなるでしょう。全体の損益分岐点を知ることができれば、販売計画を立てることもできます。会計事務所が「〇〇円の利益を確保するためには、〇〇円の売上高が必要です。」と、実際の数字をもとにクライアントに説明することができれば、クライアントの行う経営意思決定に役立つのではないでしょうか。