Management Column新収益計上基準とは?中小企業への影響は?
緊急事態宣言などは出ていませんが、新型コロナの感染者数が爆発的に増えているコロナ禍の中、令和4年度の税理士試験が開催されました。陽性判定が出たり濃厚接触者になったりすると試験を受けることができませんので、受験者は感染予防と受験対策で大変だったと思います。受験者も、応援や協力をされた周囲の方も、お疲れ様でした。
税理士試験には数多くの科目がありますが、受験者の多い簿記論や財務諸表論について、難しかったとの感想が多く聞かれました。今回は、税理士試験の出題に関連した項目で、新収益認識基準についてまとめました。税法は毎年改正されますが、会計についての考え方もどんどん新しくなっていきます。受験予定のない会計事務所スタッフも、参考にしてください。
新収益認識基準とは?
収益認識基準とは、簡単に言うと売上を計上するタイミングをどの時点にするか、の基準です。従来は、企業会計原則では収益認識基準は実現主義が原則とされてきました。実現主義とは、販売したものに対して、現金などの貨幣的裏付けのある対価を確実に受け取ったという事実に基づいて、収益を計上するものです。収益の実現時点は業種や企業によって異なり、納品基準、検収基準などで収益が認識されてきました。
しかし、国際会計基準では、収益は、企業が商品・製品・サービスを顧客に提供する義務(履行義務)を果たし、商品などを支配する権利が顧客に移転したときに計上することになっています。確かに、業種や企業ごとに異なる実現主義では、経営成績などを企業比較するのが難しくなります。日本でも、財務諸表の国際比較を可能にして企業の国際競争力を確保するために、積極的に国際会計基準に合わせていこうとする動きがあり、2021年4月から「新収益認識基準」の適用が開始されました。この適用は、大企業で強制適用となっています。
中小企業への影響
新収益認識基準は上場企業などでは強制適用ですが、非上場の中小企業では任意適用となっています。新収益認識基準を正確に適用するには高い会計知識が必要となり、多くの中小企業ではその適用が困難です。親会社が上場しているなどの事情がなければ、中小企業では、従来の実現主義や法人税の権利確定主義の考え方にあわせた処理も可能となっています。
建設業では、従来、工事進行基準や工事完成基準で収益の認識がされてきましたが、収益認識基準が創設されたことに伴い、工事会計基準が廃止されました。しかし、法人税法では工事進行基準や工事完成基準の規定は引き続き存在しており、中小企業への影響は少ないと考えられます。
新収益認識基準のポイント
新収益認識基準の収益認識は、企業が顧客に対する商品・製品・サービスの履行義務を果たし、商品などの支配が顧客に移転したときに計上するのは上記で説明したとおりですが、具体的には次の5つのステップが必要です。
新収益認識基準は、見積もりや判断が求められるため中小企業での適用が難しい言われていますが、表現が難解であることもその要因ではないでしょうか。各ステップで簡単な説明を補足しますので、参考にしてください。
- 1.契約の識別
- 売上を行い計上するには、顧客との契約が基本となります。書面、口頭、取引慣行、一体となった複数の契約は含まれますが、対価のないような寄付や贈与は含まれません。
- 2.履行義務の識別
- 製品・サービスの提供など、企業が顧客に対してすべきことを指します。
- 3.取引価格の算定
- 基本的には契約金額となりますが、値引きやリベートがある場合にはこれを調整した金額となります。
- 4.取引価格の履行義務への配分
- 例えば、商品代金と保守サービスが一体となっている場合には、取引価格を商品の引き渡しと保守サービス提供に分けます。
- 5. 履行義務の充足に応じて収益を認識
- 例えば、商品を引き渡した時点では、「4.取引価格の履行義務への配分」で分けた取引価格のうち商品分の売上しか計上できません。保守サービス分は、期間配分などの方法で収益計上を行うことになります。