Management Column税理士制度の変遷と今後の業界動向
先日は、日本ではワールドカップが盛り上がっていましたが、会計事務所関係では税理士試験の発表がありました。税理士試験受験者は減少傾向にありましたが、昨年度から少し回復し、今年度は受験者数、合格率、合格者数ともに前年度より増加しています。発表によると、25歳以下の受験者数が約650人増えています。若手が増えることは税理士業界にとってよいニュースといえるのではないでしょうか。
税理士はITの発展にしたがい仕事が少なくなる業種としてあげられていますが、現場で活躍するスタッフは、人の力がなくてはクライアントのサポートをすることができないと感じており、実力や経験のあるスタッフが求められています。今回は、税理士業界が現在にいたるまでの歴史や、今後の税理士の在り方を考察してみたいと思います。
税理士制度のはじまり
1942年に戦時下での税務行政の適正かつ円滑な運営のため、税務に関する職業専門家制度として、税務代理士法が公布・施行されました。
その後、民主化や公務員不足により1947年に申告納税制度が導入されましたが、国民が自分で税金を計算し納付する方式であったため、無申告や申告誤りが多発することとなりました。これにより、税金を計算し申告手続きを代行する職業が必要性が高まっていきました。
1950年には、アメリカのシャウプ税制使節団による勧告(シャウプ勧告)がありました。シャウプ勧告により、税制は公正で中立的なものであるべきことが示されました。これを受けて1951年に税理士法が制定され、税理士試験制度もはじまりました。今では、税理士制度は国と納税者の間に立つ中立公正な立場から、適正な納税義務の実現を図るための制度として周知されています。
国税庁 租税史料 4.税務代理士制度の登場税理士会の登場
税理士法の1956年の改正では、税理士業務を行うには税理士登録と税理士会への入会が必要とされました。税理士会は全国の地域ごとに15の法人が設置されています。税理士会の上部組織が、日本税理士会連合会で、日税連という略称で呼ばれることが多いです。日税連は、税理士会や会員に対する指導や監督、税理士登録事務などを行っています。
税理士は独占業務が認められているかわりに、社会的な責任を負っています。倫理に関する規定をおき、税理士は脱税相談に応ずることができず、依頼者が租税に関して不正な行為を行っていることを知った場合には、是正するよう助言しなければならないとされています。また研修制度などにより業界全体の品質向上を目指し、税理士法に違反した場合の罰則規定もおかれています。
税理士試験
税理士になるためには、税理士試験の受験資格を得たうえで税理士試験に合格する必要があります。科目合格性であるため1科目ずつ受験すればよいのですが、特に税法科目の合格率が低く、難関試験といわれています。以前は、大学院に行くことで全科目免除が可能でしたが、現在は大学院に行ったとしても1部科目の免除しか認められていません。このほか、公認会計士や弁護士の資格保有者、税務署での実務経験により、税理士となることもできます。
今後の税理士業界
2022年の法改正でも税理士法が改正されており、デジタル化や受験要件の緩和、業務範囲の拡大、懲戒逃れ対策がその内容となっています。確かに、税金の計算や申告、そのもととなる帳簿の作成などは、IT化が進むことで税理士でなくても対応可能な範囲が拡大するでしょう。しかし、帳簿の裏にあるクライアントの事情や取引内容を把握することは、IT化だけでは対応不能です。また、経営や相続に不安を抱えるクライアントは、機械的な対応ではなく、親身になって相談にのってくれる対応を求めています。
デジタル化に対応して業務を効率化すること、社会や法律の変化に対応し専門知識を高めること、クライアントによりそい親身に相談に乗ることなど、さまざまなことが求められている税理士は、やはり今後も必要とされる職業といえるのではないでしょうか。