Management Columnインボイス制度への対応のうち、下請法との関係で注意が必要となるケース
3月17日、独自の品揃えで人気の店舗を展開するK社が、公正取引委員会から下請代金支払遅延等防止法(下請法)違反で勧告を受けました。下請け業者に支払う代金の不当な減額などが問題になったというものです。K社はこの勧告を受け、減額相当分などの返還と、再発防止への取り組みをホームページで発表しています。
ここで問題になったのは下請法ですが、インボイス制度への対応との関係で問題になるケースがあるので注意が必要です。ご存じの通り、今年10月1日から消費税のインボイス制度が始まります。下請け業者がインボイス発行事業者でない場合、代金を支払っても消費税の仕入税額控除ができなくなり(6年間の経過措置あり)、結果として消費税の納税額が増えてしまいます。しかし、インボイス発行事業者の登録はあくまで任意ですから、免税事業者のなかには「インボイス登録をしない」という選択をする下請け業者も一定数いると考えられます。その場合、発注元の業者は10月1日からの取引にどう対応するのか。4つの選択肢がありました。
- ①下請け事業者にインボイス発行事業者の登録を求める
- ②下請け事業者との取引をやめる
- ③下請け事業者との取引を同一条件で継続し、仕入税額控除分は自社でかぶる
- ④下請け事業者との取引条件を見直す
おそらく、②と③は少数で、多くは①の対応をとっているはずです。しかし、④の対応も十分あり得ます。「取引条件を見直す」とは、インボイス登録をしている下請け業者とそうでない下請け業者の取引条件に差をつけ、例えば登録している業者よりも取引価格を引き下げるなどの対応をすることです。このときに注意しなければならないのが、最初に述べた下請法(建設工事については建設業法)、及び、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)です。
これについて、2022(R4)年1月19日に財務省等の連名で「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」が公表されています。末尾に挙げたサイトを開き、以下の3か所を確認してください。
- 「Q&A本体」の「Q7」
- 「取引に係るQ&A案の具体例(下請法)」
- 「国交省建設業版 インボイス制度における具体例」
内容の一部を以下に抜粋します。
基本的な考え方
事業者がどのような条件で取引するかについては、基本的に、取引当事者間の自主的な判断に委ねられるものですが、免税事業者等の小規模事業者は、売上先の事業者との間で取引条件について情報量や交渉力の面で格差があり、取引条件が一方的に不利になりやすい場合も想定されます。
自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が、取引の相手方に対し、その地位を利用して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となるおそれがあります。
仕入先である免税事業者との取引について、インボイス制度の実施を契機として取引条件を見直すことそれ自体が、直ちに問題となるものではありませんが、見直しに当たっては、「優越的地位の濫用」に該当する行為を行わないよう注意が必要です。
取引対価の引下げについて
取引上優越した地位にある事業者(買手)が、インボイス制度の実施後の免税事業者との取引において、仕入税額控除ができないことを理由に、免税事業者に対して取引価格の引下げを要請し、取引価格の再交渉において、仕入税額控除が制限される分(注)について、免税事業者の仕入れや諸経費の支払いに係る消費税の負担をも考慮した上で、双方納得の上で取引価格を設定すれば、結果的に取引価格が引き下げられたとしても、独占禁止法上問題となるものではありません。
しかし、再交渉が形式的なものにすぎず、仕入側の事業者(買手)の都合のみで著しく低い価格を設定し、免税事業者が負担していた消費税額も払えないような価格を設定した場合には、優越的地位の濫用として、独占禁止法上問題となります。
(注)免税事業者からの課税仕入れについては、インボイス制度の実施後3年間は、仕入税額相当額の8割、その後の3年間は同5割の控除ができることとされています。
参照:中小企業庁 解説ページ