Management Column所得税の源泉徴収
関東を中心に新型コロナウイルスの感染者がじわじわと増えており、警戒感が強まってきています。感染予防に気を付けながら、日々の業務をこなしていかなければなりませんが、2020年の上期が終わり、源泉所得税の納期の特例の期限が近づいてきました。新型コロナ騒ぎで大変ですが、忘れずに手続きを行いましょう。
今回は、いつも何気なく行っている源泉徴収について、掘り下げてみました。
源泉徴収の歴史
源泉徴収とは、従業員を雇ったり、税理士等に報酬を支払ったりする場合等に、金額に応じた所得税と復興特別所得税を差し引くことです。事業者は、差し引いた源泉所得税を納付しなければなりませんが、これは従業員や税理士等から預かった税金を納めているだけで、事業者自身の税金を納めているわけではありません。
源泉徴収の歴史を紐解くと、はじまりは、イギリスがナポレオン戦争の戦費調達のために、貴族階級に課税したことが起源となります。広く国民全体から税金を徴収するための制度として、源泉徴収を整備したのはヒトラーによるナチス・ドイツで、この方法はその後、多くの国の税制に影響を与えました。
日本では、明治32年に公社債の利子に対する源泉徴収に始まり、戦費調達のために、昭和15年から給与の源泉徴収がはじまりました。
源泉徴収の合憲性
当たり前のように行っている源泉徴収ですが、個人が自分で納めるべき所得税の納税義務を事業者が負い、これを怠ると延滞税等のペナルティを課されるのは、少し疑問が残ります。事業者は、個人の納税を代行しても、何の手数料も受け取ることができません。このことが、財産権の侵害であり、法の下の平等に違反するため、憲法違反ではないかと裁判で争われたことがあります。
最高裁は、1962年2月の判決において、国の税収確保・徴税手続の費用と労力の節約・担税者が申告納付事務を免がれる等の理由から、源泉徴収制度は能率的・合理的であり、公共の福祉の要請にこたえるものとして合憲の判決を出しました。
未払給与に対する源泉徴収
事業者は、役員や従業員に給与を支払いますが、定められた支給日に総額を支払い、同時に所得税を源泉徴収するのが通常の方法です。しかし、資金繰りの悪化により、給与の支払いが遅れる場合もあります。最近では、新型コロナの影響で資金繰りが悪化している事業者も多くなっています。
給与の源泉徴収は、支払った金額の中から所得税を預かるものなので、原則として支払うまでは源泉徴収は行わなくてもよく、一部を支払った場合には、その一部に対応した源泉徴収を行えばよいこととなっています。
納期の特例を利用するメリットとデメリット
上期の源泉徴収の納期の特例の期限は、7月10日です。納期の特例は、年2回、源泉徴収の納付を行えばよいため、毎月納付と比べると、源泉納付の金額分を手元にプールし資金運用ができ、事務手続きも少なくてすむというメリットがあります。
しかし、半年に1度なので、納付を忘れやすく、半年分の源泉徴収金額を納付しなければならないため、金額が大きくなり、納付が困難になるケースもあります。資金繰りを平準化したい場合は、納期の特例が利用できる場合でも、毎月納付を選択するとよいでしょう。