Management Column災害にあってしまったときの税務
日本は災害大国ともいわれ、海外に比べて台風・大雨・地震などの自然災害が発生しやすいといわれています。東日本大震災では、甚大な被害を受けました。つい先日の2021年7月3日の熱海の土石流では、今も救出作業が続いています。被災された方には心からお見舞い申しあげるとともに、みなさまの安全と一日も早い復興をお祈り申しあげます。
災害はあわないように日頃から防災を念頭において行動し、企業においてはリスク管理を行うことが重要となります。会計事務所では、万が一、災害にあってしまったときのための税務を頭に入れておけば、災害にあってしまったクライアントに迅速にアドバイスできるのではないでしょうか。
災害で商品・店舗・事務所などが被害を受けた場合
法人税の計算では、商品・店舗・事務所などの資産が災害によって被害を受けた場合、次の損失や費用の全額が損金に算入されます。
- 商品・店舗・事務所などの資産が災害により滅失または損壊した場合の損失
- 損壊した資産の取壊し費用・除去費用
- 土砂などの障害物の除去費用
また、災害によって資産に著しい損傷が生じ、評価損を計上した場合には、これを損金の額に算入することができます。
さらに、復旧のために支出が必要な場合があります。災害で被害を受けて評価損を計上しなかった固定資産については、復旧のための支出を、修繕費または資本的支出にすることが認められています。まず、原状回復費用は修繕費となります。被災前の効用維持のために行う補強工事・土砂崩れ防止などの費用ついては修繕費として経理することで法人税でもその処理が認められます。それ以外で修繕費か資本的支出かが明らかでない支出は、30%相当額を修繕費、残額を資本的支出とする経理をしていれば、法人税でもその処理が認められます。
災害損失特別勘定の設置
災害によって棚卸資産や固定資産が被害を受けた場合、修繕するために時間がかかることがあります。支出に備えておきたいというケースでは、「災害損失特別勘定」を設置することができます。災害損失特別勘定は、災害のあった事業年度に、1年以内に支出する災害にかかる費用の適正な見積額のうち、繰入限度以下の金額を損金経理により損金算入できるものです。この災害損失特別勘定の繰入額は、災害損失の額に含まれます。
災害のあった日から1年を経過した事業年度に災害損失特別勘定の残額がある場合には、その残額を取り崩し益金の額に算入します。しかし、やむを得ない事情により修繕などが遅れているときは、税務署長の確認を受けることで、その修繕などが完了すると見込まれる事業年度まで、益金算入を延長することができます。
災害損失欠損金
災害損失によって欠損金がある場合には、その欠損金額を10年間(平成30年4月1日前に開始した事業年度では9年間)、繰り越して控除できます。災害損失欠損金は通常の欠損金と異なり、青色申告書の提出ができない事業年度であっても、繰り越して控除することが認められます。
災害損失欠損金は、繰戻し還付も認められています。被災した事業年度の確定申告書または中間申告書と同時に、繰戻しによる還付請求書を税務署に提出すると、被災した事業年度の前年(青色申告書を提出する場合には前2年)の事業年度への繰戻しが認められ、法人税額のうち、その災害損失欠損金に対応する部分の金額の還付を受けることができます。また、仮決算による中間申告を行う場合、法人税額から控除しきれなかった所得税について、災害損失金額を限度に還付を受けることができます。