Management Columnインボイス制度 開始直前でも反対の声
10月1日から消費税のインボイス制度が開始されます。影響を受ける事業者は、税務署への登録申請やインボイス対応の事務・経理処理の準備が大詰めになっています。一方、社会全体を見渡せば、この制度についての反対意見が引き続き出されています。インボイス登録申請をしたものの「できればやりたくなかった。元請けからの要請でやむを得ず…」という免税事業者も少なくありません。税の専門家として反対を表明する税理士もいます。つい先日(9月1日)も、全国青年税理士連盟が「インボイス制度に対する反対声明」を出しました。
消費税 導入して34年が経過
税の制度は永久不変のものではありません。それは消費税も同じです。日本の消費税は1989年4月1日から税率3%で始まった新しい税制です。導入時の免税点は課税売上高が年間3000万円以下、簡易課税制度が選択できる課税売上高は年間5億円以下でした。両方とも、今よりかなり広い範囲であり、多くの事業者が含まれていました。その後、何回もの改定を経て、現在の制度になっています。日本社会にとってどのような税制が望ましいかは、永遠の課題です。インボイス制度も、今後の検証が必要な制度であることは間違いありません。
インボイス制度 賛成の立場
開始直前ではありますが、ここでインボイス制度の賛成(推進)意見と反対意見を簡単に整理してみましょう。導入後にインボイス制度の検証をする際、導入前にどのような意見が出されていたかは重要な視点となります。
まずは、賛成(推進)の立場の意見です。政府はこの制度が必要な理由として、次の2つを挙げています。
- ①「益税」をなくす(=国の税収を増やす)
- ②複数税率に対応する
このうち②は請求書等の記載方法の問題であり、より本質的な理由は①であると考えられます。「益税」とは、免税事業者が売上先から消費税を「預かった」にもかかわらず、経費に含まれる消費税を差し引いた「残りの消費税」を国に納付していないのは「利益を得ている」というものです。財務省は、インボイス制度導入により約2480億円程度の税収増を見込んでいます(2019.2.26国会答弁)。
インボイス制度 反対の立場
次に反対の立場の意見です。これは主に、免税事業者から出されているものです。
- ①売上先から値下げを要求される。応じなければ取引から排除される
- ②課税事業者になることで税負担が増える
- ③消費税の申告のための経理事務負担が増える
免税事業者は基準期間の売上高が年間1000万円以下ですから、零細な事業者です。売上先との力関係は相対的に弱く、取引価格に口をはさむことができない事業者も少なくありません。その場合、そもそも利益を出すのに必要な取引価格が設定できません。そのうえ、さらに値下げを迫られたり、納税が必要になったりしたら、事業が立ち行かなくなるという主張です。
社会全体への影響も
インボイス制度に賛成する側は、税収増と「益税」という不公平感の是正を主張しています。反対する側は、経済活動において免税事業者は不利な立場にあり、多くが適正価格から値下げした取引価格になっているため、消費税が実質的には転嫁できていないこと、納税の負担が過大であること、取引から排除されるリスクがあることを主張しています。両者の着眼点は異なっており、その対立は今後も続くと考えられます。
免税事業者は法人・個人を合わせて約500万者とされています。今後、これらの事業者がどのような選択をするか。それによっては免税事業者だけの問題にとどまらず、日本社会や産業構造に影響が出る可能性も大いにあります。インボイス制度の行方をよくよく注視する必要があるでしょう。