Management Column政治資金と税金について
政界を大きく揺るがしている自民党の政治資金パーティーをめぐる事件。国会議員が派閥パーティー券の販売ノルマを超えて集めた分を、派閥が議員にキックバックし、派閥側も議員側も政治資金収支報告書に記載していなかった問題です。東京地検特捜部の捜査では、自民党の安倍派、二階派、岸田派が、おととしまでの5年間で合わせて9億7000万円余りのパーティー収入を政治資金収支報告書に記載していなかったことが明らかになっています。 会社でも個人でも何らかの利益を得たら、普通は税金がかかります。「記載しなかったお金」を手に入れた団体や個人に、税金はかからないのでしょうか。 この事件に登場するのは、政治団体と議員個人です。それぞれごとに政治資金と税金との関係をみる必要があります。
1.政治団体と税金
政治団体のうち、法人格を取得した政党と政党の指定する政治資金団体だけが「法人」です。これら以外の政治団体は法人格を持っていないため、「人格なき社団」に該当します。政策研究団体(いわゆる派閥)、資金管理団体(議員が代表となり、その政治資金を取り扱う団体)、国会議員関係政治団体などが「人格なき社団」として扱われます。
- ◆寄付収入に対する課税
- 法人税法では、人格なき社団について、収益事業から生じた所得以外の所得については法人税を課さないこととされています。したがって、政治団体が受けた寄附収入について法人税は課税されません。法人格を有する政党等も同様です。 相続税法では、公益を目的とする事業を行う者が受けた贈与財産について、公益を目的とした事業に供することが確実なものについては、贈与税を非課税とする措置がとられています。政治団体が受けた政治活動に関する寄付は、一般的にはこれに該当するという扱いで非課税になっています。 法人格を有する政党等についても、法人は贈与税の納税義務者となっていないため、贈与税は課税されません。
- ◆事業収入に対する課税
- 法人格の有無にかかわらず、収益事業による所得があれば法人税が課税されます。例えば、政治団体が、広く社会に向けて対価を得て機関紙等を発行するなどの出版事業を行なっている場合は、法人税も消費税もかかります。
2.政治家個人と税金
政治家個人が政治資金を受けとった場合の税金はどうでしょうか。実は、毎年1月に国税庁が出す「確定申告の手引き―政治資金に係る『雑所得』の計算等の概要-」という文書(以下、「概要」)に、その説明が載っています。令和6年1月の「概要」には、政治資金に係る雑所得の計算について、以下のように書かれています。
政党から受けた政治活動費や、個人、後援団体などの政治団体から受けた政治活動のための物品等による寄附などは「雑所得」の収入金額になりますので、所得金額の計算をする必要があります。
令和5年分の「政治資金に係る『雑所得』」の金額は、年間の「政治資金収入」から「政治活動のために支出した費用」を控除した差額であり、課税対象となります。
式で書けば次の通りです。
【政治資金に係る雑所得(課税対象)= 政治資金収入 - 政治活動のために支出した費用】
つまり、政治資金についても事業所得の計算方法と同じように、収入から支出を差し引いて残った分があれば、それは雑所得であり課税対象になります。
3.政治資金収支報告書の訂正
今年1月から2月にかけて、政治資金収支内訳書の訂正が相次いで行われました。2月8日のNHK WEB「自民 収支報告書訂正の72人 派閥からの寄付約70%が『繰越額』」によれば、2月8日正午までに72人の国会議員がホームページ上で訂正後の収支報告書(おととしまでの3年間分)を公表しています。NHKはその内容を以下のように報道しています。
・派閥側の訂正で新たに判明した議員側への寄付の総額3億7749万円
・議員側の訂正で追加された支出の総額は28%にあたる1億592万円
政治資金収支報告書は、政治団体が作るものです。それを訂正するということは、「記載しなかったお金は政治団体が受け取った」ということを意味しますが、それを鵜呑みにしてもいいのでしょうか。「政治資金収支報告書に記載しなくてもよい」と言われていたお金を、わざわざ政治団体(=収支報告書への記載が必要)に入れるでしょうか。そちらの方が不自然な感じがするのですが…。
もし、政治家個人に渡っていたとしたら、前述のとおり、それは政治家個人の雑所得のもとになる収入です。
同額以上の支出がなければ、おそらく追加納税が必要になります(雑所得は赤字になっても0円とみなされ、他の所得との損益通算はできません)。「現金での還付」ということになるとお金の動きを追うのは難しくなるのですが、それを分かってやっているのであれば悪質であるといえます。
もちろん、国会議員自身が自主的に「雑所得の申告を漏らしていました」ということで、修正申告し納税すればたいしたものです。
また、「政治資金収支報告書に記載せず、どう使おうが自由」というお金は、「公益を目的とした事業に供することが確実」といえるでしょうか。前述のようにそれが相続税法上、政治団体(人格なき社団)に対する贈与税を非課税にする根拠なのですが、はたしてその要件を満たしているのか、使途などを厳しく見定める必要があります。
- ◆1966年 政界の「黒い霧事件」
- 同事件は、国会議員に対する税務調査まで発展しました。申告漏れなどにより修正申告、更正決定した国会議員は「現職議員が181名、前議員が22名、合計203名で、金額はトータル2億1800万円。当時の衆参両院の定数の3割近くに申告漏れがある計算だった」(東京新聞WEB 2024年2月20日)とのことです。 はたして、今回の事件ではどこまで追求が行われるでしょうか。