Management Column控えの収受日付印を廃止
今年初めになかなか衝撃的なニュースがありました。「令和7年1月から申告書等の控えに収受日付印を押さない」という国税庁の発表です。 これまで税務署は書面で提出された申告書等(申告書、申請書、届出書などのすべての文書)について、受け取った証しとして控えの文書に収受日付印を押していました。令和7年1月からはその印は押されません。
収受日付印の役割
納税者にとって、申告書等の収受日付印には大きな役割がありました。 まずは、申告書等を税務署に提出したことの証しです。申請書や届出書などは「あれ、出してあったかな?」となることがたまにあります。そんなとき、収受日付印のある文書が保存してあれば、出したことは容易に確認できます。 これは税務署に対しても有効です。ベテラン税理士が言うには、「文書を出した」「いや、もらっていない」という納税者⇔税務署間のトラブルがたまに起こるそうです。そこでも収受日付印のある文書があれば、出したことは一目瞭然です。
次に、収受日付印のある申告書等の提出を求められる機会があることです。自営業者の場合、現状では、金融機関で融資を受けるとき、行政機関に助成金や補助金の申請をするとき、保育園の入園手続きをするときなどに、収受日付印の押してある確定申告書の提出が求められます。収受日付印が「ある」と「ない」では、文書としての役割に大きな違いがあるのです。
令和5年から水面下で
ところで、いつの間にこんな話が進んでいたのでしょうか。これは伝聞情報ですが、令和5年春ごろ、国税局(税務署)から各税理士会に「令和6年1月から書面で出された申告書等に収受日付印を押さない」という方針が示されたそうです。 納税者の申告実務を担っている税理士会は「賛成できない」という立場を取ったため、当局との間で相当もめたようです。しかし、結果として「実施を一年遅らせ、その間に納税者に周知を行う」ということで、押し切られてしまったとのことでした。 どうやら、この話は国税庁のさらに上、政府(デジタル庁)に端を発しているようです。
書面提出は200万人超(令和4年)
e-Taxが普及したとはいえ、まだそれなりに書面での申告がされています。国税庁によれば、「令和4年度のe-Tax利用率は、所得税申告で65.7%」であり、同年の「申告納税者数は653万人」ということなので、約224万人(653万人×34.3%)が所得税申告を書面で行っています。 令和6年分の確定申告(押印廃止後)では、書面提出はさらに減ると思われますが、それでも100万人を下回らないのではないでしょうか。
「国税庁Q&A」の説明では
国税庁「申告書等の控えへの収受日付印の押なつの見直しに関するQ&A」(令和6年2月1日)には、「納税者等が申告書等を提出した事実を確認したい場合はどのようにすればよいか」「金融機関や行政機関等から収受日付印の押なつされた控えを求められる場合がある」などの問いについての回答が書かれています。 前者への回答にはいくつかの方法が書かれていますが、どれも納税者には手間や費用がかかるものです。 後者への回答には、「収受日付印の押なつされた申告書等の控えを求めないよう、事前説明やお願いをした」と書かれています。金融機関や行政機関側がどうするかはこれからの話ですが、前者の回答にあるような方法が代替措置になる可能性があります。
誰にとっての利便性?
この「Q&A」で一番突っ込みたくなるのは、「今般の見直しの趣旨を教えてほしい」という問いへの回答中の「納税者の利便性の向上等の観点から…」という文言です。前節で述べたように、書面で申告書等を提出する納税者は不便になるとしか考えられないからです。高齢などを理由に書面で提出せざるを得ない人への配慮が欠けているように感じます。 ちなみに、税務署が受け取った申告書等の正本には、これまでどおりに収受日付印が押されます。それは、いつ受け取ったかの証しが必要だからです。同じ理由が出した側にもあるのですが、そちらには押さないというのは、なかなか理解ができません。 「むりやりにでも電子申告を普及させるために、わざわざ書面提出の方を不便にしたのではないか」というのは筆者の勘ぐりすぎでしょうか?
国税庁「申告書等の控えへの収受日付印の押なつの見直しに関するQ&A」